中堅上場企業がIR体制を構築する際、最初にそろえるべきは専任担当者の人数ではなく、決算説明資料の作成・機関投資家面談の記録管理・議決権行使助言会社への情報提供という3つの機能である。この3つを欠いた体制は、面談機会そのものを逃すことになる。
中堅上場企業のIR体制に何が不足しがちか?
上場直後から数年の中堅企業では、IR体制の議論が「専任者を何名置くか」という人数論から始まりやすい。しかし人数を先に決めても、決算説明資料の作り込み・面談記録の管理・議決権行使助言会社への対応という機能が伴わなければ、機関投資家からの信頼は積み上がらない。逆に、人数が少なくても3つの機能が回っていれば、面談機会を維持できる体制は組める。中堅上場企業のIR体制整備で最初に見るべきは、頭数ではなく機能の有無である。
最低限そろえるべき3つの機能とは
最低限そろえるべきは次の3つである。
①決算説明資料の作成——本決算・中間決算ごとに、資本コストや株価を意識した経営の状況を含めて説明できる資料を用意する機能。
②機関投資家面談の記録管理——ワンオンワンミーティングやスモールミーティングで出た質問・懸念・要望を、社内で追跡可能な形で残す機能。
③議決権行使助言会社への情報提供——株主総会に向けて、ガバナンス上の論点について正確な情報を先回りで提供する機能。
この3つは互いに独立しておらず、①で示した内容が②で記録された投資家の疑問に応えるものであり、③はその2つの積み重ねを対外的なガバナンス評価につなげる役割を持つ。どれか一つが欠けても、面談の質・頻度に影響が出る。
決算説明資料はどこまで作り込むべきか
決算説明資料の作り込みには、他社の実施状況が一つの目安になる。日本IR協議会「IR活動の実態調査」(2025年版、2025年3月14日〜4月25日実施、全上場会社4,113社中962社回答・回収率23.4%、2025年6月12日公表、URL: https://www.jira.or.jp/download/survey/202506_newsrelease.pdf)によると、IR実施企業(916社)のうち決算説明会の開催回数は「年2回」が51.6%、「年4回」が33.8%で、合計85.4%を占めた。決算説明会プレゼン資料の作成回数は「年4回作成」が54.5%、「年2回作成」が35.5%で、合計90.0%に達している。
決算説明会をウェブ公開している企業(729社)に絞ると、日本語での公開内容は「プレゼンテーション資料」が99.3%とほぼ全社、「動画配信」が74.5%、「Q&A」が62.8%、「プレゼンテーション内容を文章で報告」が52.0%であった。英語による開示では「プレゼンテーション資料」が72.2%と7割を超える一方、「動画配信」は18.4%にとどまる。中堅上場企業がまず作り込むべきは、プレゼンテーション資料そのものであり、動画・英語対応はその後の拡張として位置づけるのが実態に沿った順序といえる。
機関投資家面談の記録はなぜ重要か?
同調査では、IR実施企業の90.0%が株主・投資家等の意見を社内へ報告する仕組みを設けていた。報告内容としては「株主・投資家などとのミーティングの内容」が90.2%と最大で、「IRで得られた情報のフィードバック」が85.2%、「株主・投資家の経営計画に関するコメント」が71.8%と続く(日本IR協議会「IR活動の実態調査」2025年版、前掲URL)。面談で得た情報を社内へ報告する仕組みは、すでに大多数の企業で標準的な取組みになっている。
面談記録が残っていなければ、次回以降の面談で同じ質問に一貫した回答ができず、議決権行使助言会社への情報提供の根拠も薄くなる。記録管理は単なる事務作業ではなく、①の資料作成と③の対外説明の精度を支える基盤機能として位置づけるべきである。
体制の違いは面談機会にどう影響するか
同調査は「自社の体制別面談実施率」を測定したものではないが、面談件数そのもののばらつきは公表されている。ワンオンワンミーティング(経営層との個別面談)の実施率は70.2%(前回65.7%)で7割を上回った。開催件数の内訳は「1〜9件」が28.7%、「10〜29件」が21.1%、「50〜99件」が10.9%、「0件」が14.3%、「100件以上」が9.6%で、加重平均値は31.4件だった。アナリスト・機関投資家の取材受け入れと訪問の回数では「1〜49件」が38.0%と最大だが、加重平均値は127.7件に達し、企業間のばらつきは大きい(日本IR協議会「IR活動の実態調査」2025年版、前掲URL)。
この数字自体は体制の巧拙を直接示すものではないが、面談を「0件」または少数にとどめている企業が一定割合存在する一方、100件を超える企業もある事実は、面談機会が自動的には積み上がらないことを示している。決算説明資料が整い、面談記録が残る体制であれば、投資家側からの再訪問や紹介につながりやすいという傾向は、実務上広く指摘されている。
専任担当者を置けない場合、どう補うか
専任担当者を置けない中堅上場企業では、3つの機能を既存の管理部門・経理部門の兼務や外部リソースで代替する発想が現実的である。同調査では、回答企業のうち日本IR協議会の事業へ参加、またはサービスを利用したことが「ある」企業の割合は54.7%(前回56.4%)であった(日本IR協議会「IR活動の実態調査」2025年版、前掲URL)。半数を超える企業が外部の団体・研修を活用している実態は、専任者の頭数不足を外部リソースで補う動きが一般的であることを示唆する。
補い方の優先順位としては、まず②の面談記録管理をルール化・様式化し、属人化を避けることが出発点になる。次に①の決算説明資料を外部専門家の支援で標準化し、最後に③の議決権行使助言会社対応を、法務・IRの兼務者が定型フローとして回せる状態を作る、という順序が無理のない補い方である。
よくある質問
Q1. IR担当者は何名から専任にすべきですか?
公表されている調査データの範囲では、専任担当者の人数分布を裏付ける数字は確認できなかった。人数の目安を断定的に示すことはできず、まず3つの機能(決算説明資料の作成・面談記録管理・議決権行使助言会社への情報提供)が回っているかどうかで体制の過不足を判断する方が実態に即している。
Q2. IR体制の構築に外部委託は有効ですか?
日本IR協議会「IR活動の実態調査」2025年版では、回答企業の54.7%が同協議会の事業やサービスを利用した経験があると回答している(前掲URL)。外部の団体・専門家を活用する企業が半数を超えている実態から、専任者を十分に置けない段階では外部委託や外部団体の活用が選択肢になりやすいと考えられる。ただし効果を保証するものではなく、自社の機能不足箇所を見極めた上での活用が前提になる。
Q3. IR体制が未整備だとどのようなリスクがありますか?
決算説明資料が薄いと投資家からの質問に十分答えられず、面談記録が残らないと同じ論点への回答が担当者ごとにぶれるリスクがある。また議決権行使助言会社への情報提供が遅れると、株主総会に向けたガバナンス評価で不利な扱いを受けるリスクも生じ得る。これらは面談機会そのものが積み上がらない結果につながりやすい。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 最初にそろえる3機能 | 決算説明資料の作成/機関投資家面談の記録管理/議決権行使助言会社への情報提供 |
| 決算説明会の実施水準 | 年2回51.6%・年4回33.8%(合計85.4%)、資料作成は年4回54.5%・年2回35.5%(合計90.0%) |
| 面談記録の社内報告 | IR実施企業の90.0%が報告の仕組みを設置、報告内容の最多は「ミーティングの内容」90.2% |
| 面談件数のばらつき | ワンオンワン実施率70.2%・加重平均31.4件、アナリスト対応全体の加重平均127.7件 |
| 専任者不足の補い方 | 外部団体・専門家の活用(同調査での利用経験企業54.7%)、機能単位での優先順位付け |
出典はいずれも、日本IR協議会「IR活動の実態調査」(2025年版、2025年6月12日公表、全上場会社4,113社中962社回答・回収率23.4%)URL: https://www.jira.or.jp/download/survey/202506_newsrelease.pdf
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