議決権行使助言会社の推奨は、取締役会議案の内容そのものより先に、独立社外取締役の比率や政策保有株式の開示水準といった定量基準で機械的にスクリーニングされている。総会前にこの基準に照らして自社を点検することが、対応の起点になる。
議決権行使助言会社とは何をする会社か?
議決権行使助言会社は、機関投資家に対して株主総会議案ごとの賛否推奨を提供する専門機関である。世界最大手のISS(Institutional Shareholder Services)は1985年設立で、世界29拠点、約3,400のクライアントにガバナンス関連のデータ・分析・助言を提供している(ISS「Japan Proxy Voting Guidelines」2026年版、https://www.issgovernance.com/file/policy/active/asiapacific/Japan-Voting-Guidelines-Japanese.pdf)。もう一方の主要プレーヤーであるGlass Lewisも、日本企業向けに毎年ベンチマーク・ポリシー・ガイドラインを公表し、取締役選任・監査役選任・定款変更・自己株式取得・買収防衛策・M&A・株主提案など総会議案の主要類型を網羅した助言基準を定めている(Glass Lewis「Japan Benchmark Policy Guidelines」2024年版、https://www.glasslewis.com/wp-content/uploads/2024/01/2024-Japan-Benchmark-Policy-Guidelines-in-Japanese.pdf)。多数の投資先企業を抱える機関投資家は、個々の議案を独自に精査する時間的制約から、こうした推奨を意思決定の参考情報として利用する。
推奨はどのような基準で決まるのか
両社とも、個別議案の是非を物語的に評価する前段階として、財務指標・ガバナンス体制に関する定量基準によるスクリーニングを行う。ISSの監査役設置会社向け基準では、①過去5期平均ROEが5%を下回りかつ改善傾向にない、②政策保有株式の保有額が純資産の20%以上、③取締役会に占める社外取締役の割合が3分の1未満または2名未満、④女性取締役が一人もいない(2027年2月1日以降開催の総会では割合10%未満)、⑤前会計年度の取締役会出席率が75%未満、のいずれかに該当すると、原則として経営トップである取締役に反対を推奨する(ISS「Japan Proxy Voting Guidelines」2026年版)。同様の基準は指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社にも適用される。
独立社外取締役比率・政策保有株式の開示水準はどう影響するか
この2つの基準は、助言会社の推奨ロジックの中核をなす。ISSの政策保有株式の判定では、「保有目的が純投資目的以外の投資株式」及び「みなし保有株式」の貸借対照表計上額の合計が純資産の20%以上かどうかを機械的に判定する(同ガイドライン)。Glass Lewisも同種の考え方を採るが、前年度の有価証券報告書で開示された政策保有株式額が連結純資産の10%以上であれば取締役会議長への反対推奨の検討対象になる点で、ISSより厳しい入口基準を設けている(Glass Lewis「Japan Benchmark Policy Guidelines」2024年版)。いずれも前年度までに開示済みの数値をもとに判定されるため、直近の有価証券報告書の開示内容と現在の取締役会構成が、そのまま推奨の分岐点になる。
反対推奨が出た場合、総会前に何ができるか?
ISSは透明性確保を目的に、調査対象企業に自社の総会に関する分析レポートを無料で提供する制度を設けている(ISS「Japan Proxy Voting Guidelines」2026年版)。これを使えば、反対推奨の有無と理由を総会前に確認し、追加開示や投資家対話に反映させる余地が生まれる。Glass Lewisの政策保有株式基準には例外条項もあり、保有比率が連結純資産の10%以上20%未満でも、①過去5事業年度の平均ROEが8%以上(または直近事業年度で8%以上、2025年以降適用)、②5年以内に20%以下にする明確な目標値・期日を含む縮減計画を開示、のいずれかに該当すれば反対推奨を回避できるとされる(同ガイドライン)。総会前にできることは、独立社外取締役比率・政策保有株式額・ROEに自社の開示が抵触していないかを確認し、抵触する場合は縮減計画の開示など例外要件を検討することである。
ISS・グラスルイスで基準はどう違うか
ISSは機関設計を問わず一律の閾値(社外取締役比率3分の1未満・2名未満など)を経営トップに適用するシンプルな設計である。一方Glass Lewisは、東証プライム市場上場か否か、支配株主の有無によって独立性基準を段階的に変える。支配株主を持たないプライム市場上場会社は「3分の1以上」、支配株主を有するプライム市場上場会社は「過半数」が求められ、監査役会は市場区分を問わず過半数を独立役員とすることが求められる(Glass Lewis「Japan Benchmark Policy Guidelines」2024年版)。政策保有株式もGlass Lewisの入口の閾値(10%以上)はISS(20%以上)より低いが、ROE水準や縮減計画の開示による例外規定がある点が特徴である。ジェンダー多様性でも、ISSは「女性取締役ゼロ」を反対条件とするのに対し、Glass Lewisはプライム市場上場企業に最低10%(2026年以降は最低20%)の多様な性別の取締役を求めるなど、水準・適用時期の両面で差がある(同ガイドライン)。
反対推奨を受けた企業はその後どう対応すべきか
反対推奨は機関投資家の判断材料の一つであり、実際の議決権行使動向とは必ずしも一致しない(詳細な数値はFAQ①参照)。反対推奨を受けた企業がとるべき対応は、単発の開示対応にとどまらず、独立社外取締役比率の是正や政策保有株式の縮減計画の開示など、基準そのものに関わる指標の改善である。加えて、次項FAQ③のとおり基準は毎年改定されるため、翌年以降の総会に向けて改定内容を継続的に点検する体制を持つことが望ましい。
よくある質問
Q1. 議決権行使助言会社の反対推奨が出ると必ず否決されますか?
必ず否決されるわけではない。反対推奨は機関投資家の議決権行使判断における参考情報の一つであり、各投資家は自社の議決権行使基準に基づいて最終的な賛否を決める。2025年の実績では、取締役選任議案に対するISSの反対推奨率は9.2%だったのに対し、国内運用機関32社の反対比率平均は10.9%であり、両者は一致していない(旬刊商事法務No.2407・2025年11月25日号、ISS「Japan Proxy Voting Guidelines」2026年版所収)。反対推奨が出た議案が実際に否決に至るかどうかは、株主構成や個々の投資家の判断に左右されるため、一律には決まらない。
Q2. 反対推奨に対して会社側は反論を提出できますか?
ISSは透明性確保の観点から、調査対象企業に対して自社の株主総会に関する分析レポートを無料で提供する制度を設けている(ISS「Japan Proxy Voting Guidelines」2026年版)。企業はこのレポートを通じて反対推奨の有無・理由を総会前に確認し、追加開示や投資家との対話に活用できる。ただし、同ガイドラインには正式な反論書提出の手続きまでは明記されていない。個別の申し入れ方法については、各助言会社に直接確認する必要がある。
Q3. 助言会社の基準は毎年変わりますか?
変わる。ISSは2026年2月1日施行の2026年版で、女性取締役割合の基準を2027年2月1日以降開催の総会から「10%未満で反対」に引き上げる予定を明示している(ISS「Japan Proxy Voting Guidelines」2026年版)。Glass Lewisも2024年版で、政策保有株式の例外規定に用いるROE基準を2025年以降「8%以上」に引き上げ、ジェンダー・ダイバーシティ基準もプライム市場上場企業について2026年以降「最低20%」に引き上げるなど、段階的な改定スケジュールを公表している(Glass Lewis「Japan Benchmark Policy Guidelines」2024年版)。前年の基準をそのまま使い続けると、最新の閾値とずれるおそれがある。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助言会社の役割 | 機関投資家向けに総会議案の賛否推奨を提供(ISS・Glass Lewis) |
| 推奨決定の起点 | 独立社外取締役比率・政策保有株式額・ROEなどの定量基準による機械的スクリーニング |
| 独立社外取締役比率 | ISS:一律「3分の1未満・2名未満」で反対/Glass Lewis:市場区分・支配株主の有無で「3分の1〜過半数」に変動 |
| 政策保有株式 | ISS:純資産の20%以上で反対/Glass Lewis:連結純資産の10%以上から検討対象(ROE8%以上・縮減計画開示で回避可) |
| 総会前にできること | ISSの無料分析レポートで反対理由を事前確認、基準抵触項目の点検、縮減計画等の開示検討 |
| 基準改定の頻度 | 毎年改定。適用開始時期を事前公表するケースが多い(女性取締役比率・ROE基準等) |
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※ 本記事は一般的な論点を整理したものであり、個別の案件に関する助言ではありません。具体的なご相談は守秘を前提に承ります。
