スクイーズアウトの手続きとは?株式売渡請求で押さえるべき論点
MBO / Going Private·2026.07

スクイーズアウトの手続きとは?株式売渡請求で押さえるべき論点

スクイーズアウトの手続きで最も紛争化しやすいのは、手続きの順序ではなく売渡価格の算定根拠である。価格算定の過程を裁判所に説明できる形で記録していない案件ほど、後日の価格決定申立てで不利な判断を受けている。

スクイーズアウトとは何か?株式売渡請求との関係

スクイーズアウトとは、少数株主を金銭対価で強制的に株主の地位から排除する一連の手法の総称である。代表的な手法には、①特別支配株主が対象会社の総株主の議決権の90%以上を有する場合に用いる株式等売渡請求(会社法179条以下)、②株主総会の特別決議を要する全部取得条項付種類株式の取得、③株式併合(会社法180条以下)がある。TOB後にMBOや完全子会社化を仕上げる局面では、株主総会を経ずに実行できる株式等売渡請求が用いられることが多い。本稿は株式等売渡請求を中心に扱う。

スクイーズアウトの手続きの流れ

まずTOB等により特別支配株主要件(総株主の議決権の90%以上、会社法179条1項)を満たす必要がある。次に、売渡株式等の対価となる金銭の額またはその算定方法、取得日等を定め(179条の2)、取締役会設置会社では取締役会の承認を得る(179条の3)。対象会社は取得日の20日前までに、売渡請求に係る事項を売渡株主等に通知または公告しなければならない(179条の4第1項2号)。この通知後、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間、売渡株主等は要件を満たせば差止めを請求でき(179条の7)、あるいは価格決定の申立てを行うことができる(179条の8第1項)。取得日が到来すると株式は特別支配株主に移転し、対価が交付される。

売渡価格の算定はどう進めるべきか?

価格算定では、DCF法・市場株価法・類似会社比較法・純資産法などを組み合わせて用いるのが一般的である。もっとも実務上より重要なのは、算定手法そのものよりも、算定に至る過程――第三者評価機関の選定理由、前提条件の設定根拠、TOB価格との整合性――を後から検証できる形で記録に残すことである。後述するジュピターテレコム事件が示すとおり、裁判所が最終的に重視するのは価格の水準そのものではなく、その価格を導いた手続きの公正性である。

価格算定が争われた判例から見える留意点

ジュピターテレコム(JCOM)株式取得価格決定申立事件・最高裁平成28年7月1日決定は、住友商事とKDDIによるJCOM完全子会社化に際し、全部取得条項付種類株式の取得によるスクイーズアウトの取得価格が争われた事案である。TOB価格は当初1株11万円で公表された後、1株12万3000円に引き上げられて実施された。原審(東京地裁・東京高裁)はマーケットモデルによる回帰分析を用いて1株13万206円と算定したが、最高裁はこれを是正し、「一般に公正と認められる手続により行われたTOBの場合、取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り、公開買付価格と同額をもって公正な価格と認めるのが相当である」との判断枠組みを示したうえで、取得価格をTOB価格と同額の1株12万3000円とした(BUSINESS LAWYERS「ジュピターテレコム事件」https://www.businesslawyers.jp/articles/346、Plutus Consulting「ジュピターテレコム事件解説」https://www.plutuscon.jp/reports/246)。この決定が示す実務上の含意は、算定モデルの精緻さよりも、TOB自体が公正な手続きを経て形成された価格かどうかが優先的に審査されるという点にある。

少数株主から価格決定の申立てを受けた場合どうなるか

価格決定の申立ては非訟事件手続きとして裁判所で審理され、裁判所が売買価格を決定する(179条の8第1項)。決定額に対しては取得日後の期間について法定利率による利息が付される仕組みがあるため(179条の8)、価格算定に関する争いを長引かせるほど特別支配株主側のコストも増える構造になっている。実務上は、TOB時のプレスリリース、第三者算定機関の評価レポート、DCF等の前提条件を整理し、申立てを受けた段階で裁判所に提出できる状態にしておくことが望ましい。ジュピターテレコム事件が示したとおり、審理の帰趨は算定モデルの精緻さではなく、手続き全体の公正性を立証できるかにかかっている。

スクイーズアウトにかかる期間とコストの目安

会社法上、対象会社は取得日の20日前までに売渡株主等へ通知しなければならず(179条の4)、売渡株主等が価格決定を申し立てられる期間も取得日の20日前の日から前日までに限られる(179条の8第1項)。この通知から取得日までの部分だけで、法定上最短でも3週間程度の期間を要する計算になる。実際にはこれに先行するTOBの実施期間や、第三者算定機関による評価作業の期間が加わるため、公表から取得完了までの総所要期間は案件ごとに異なる。算定機関の報酬水準や弁護士費用についても、案件の規模・複雑性・争訟の有無によって幅が大きく、出典として示せる公表統計は確認できなかったため、本稿では具体額を挙げない。

よくある質問

Q1. スクイーズアウトに反対する株主は手続きを止められますか?

株式等売渡請求が法令に違反する場合、対象会社が通知・公告義務を怠った場合、または対価が著しく不当であり売渡株主等が不利益を受けるおそれがある場合には、会社法179条の7に基づき差止めを請求できる。ただし要件は限定的であり、価格水準への不満のみでは差止め事由とならない。

Q2. 売渡価格に不満がある株主はどのような手段を取れますか?

会社法179条の8第1項に基づき、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対して売買価格の決定を申し立てることができる。ジュピターテレコム事件のように、TOBが「一般に公正と認められる手続」を経ていたかどうかが裁判所の判断を左右する。

Q3. スクイーズアウトの完了までどのくらいの期間がかかりますか?

会社法上、対象会社は取得日の20日前までに売渡株主等へ通知する必要があり(179条の4)、価格決定の申立ても取得日の前日までに行う必要がある(179条の8)。この部分だけで法定上最短でも3週間程度を要するが、TOBの実施期間や評価作業の期間が加わるため、案件全体の所要期間は個別事情によって変動する。

まとめ

項目内容
定義少数株主を金銭対価で排除する手法の総称。近年は株式等売渡請求(会社法179条以下)が主流
要件特別支配株主が対象会社の総株主の議決権の90%以上を保有(179条1項)
通知取得日の20日前までに売渡株主等へ通知・公告(179条の4)
反対株主の手段差止請求(179条の7)/価格決定の申立て(179条の8)
判例の教訓ジュピターテレコム事件(最高裁平成28年7月1日決定)――公正な手続きを経たTOB価格は原則としてそのまま取得価格となる
期間・コスト法定上は通知から申立て期限まで最短3週間程度。総期間・費用は案件ごとに異なり、出典のある統計は確認できず

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※ 本記事は一般的な論点を整理したものであり、個別の案件に関する助言ではありません。具体的なご相談は守秘を前提に承ります。

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